2021年5月25日、文化シヤッターは決算説明会において2022年3月期を初年度とする3か年の中期経営計画(以下「中計」といいます。)の全体像を発表しました。その計画では、弊社が要望として伝えて参りました通り「資本コストの考え方を経営に活かす」という考え方も反映されていました。
「資本コストの考え方を経営に活かす」ため、文化シヤッターは、加重平均資本コスト(以下「WACC」といいます。)を7.3%であると開示し、さらに株主資本コスト及び負債コストの水準も開示しました。
そして、WACCを上回る投下資本利益率(以下「ROIC」といいます。)を目指し、BxVA(いわゆるEVA®といわれる指標で、経済的付加価値とも説明されます。EVA®の概要はリンクをご参照ください。)を増やしていくという考え方が示されました。
(出所:2021年5月25日のプレスリリース)
BxVAは、①ROICを高めること、②WACCを低下させることの、どちらによっても増加します。弊社は、文化シヤッターが数値目標達成のための具体的な道筋を示すことや、WACCの構成要素である株主資本コストを低減させることにより、文化シヤッターのBxVAが増加すると考えます。
①について、弊社が期待する施策
【ROICの「R:リターン」の観点】
文化シヤッターは、今回、製品別の事業戦略の方向性(売上高及び利益成長のマトリックス)を開示しています。しかし、なぜ売上高が増えていくのか(市場成長率並みに販売数量が増えるのか、価格は上がるのか、市場シェアが増加するのか等)、なぜ利益率が高まるのか(製品ミックスが改善するのか、コスト削減が奏功するのか等)といった点についての説明はありません。これらについての開示の充実は、将来のリターン増加の期待を高めるだけでなく、業績見通しの変動要因を減少させるため、資本コストの低下にもつながります。
【ROICの「IC:投下資本」の観点】
リターンの低い事業やアセットを保有は、全体のROICを低下させます。それらは売却し、リターンの高い事業に投資あるいは株主に売却手取り金を還元すべきです。
文化シヤッターは、多くの政策保有株式を保有していることから、リターンの低い政策保有株式を少しでも早く売却し、ROICを高めることに期待します。
②について、弊社が期待する施策
【レバレッジの観点】
文化シヤッターの自己資本比率は、2021年3月末現在50.1%に上り、有利子負債を活用することで、WACCを低下させることができると考えられます。
しかし、文化シヤッターが目標とするDEレシオは、中計期間中を通じてほぼ横ばいです。また、文化シヤッターは多額の現金同等物を保有しているため、有利子負債から現金同等物を差引いた額であるネット有利子負債はマイナスです。
DEレシオ及びネットDEレシオのいずれであっても、更に高める余地はあり、レバレッジを高めることによって、WACCを低下させることに期待します。
【ESGの観点】
文化シヤッターは2050年までの脱炭素を目指す方針を公表していますが、気候変動が文化シヤッターに与える影響をシナリオ分析することなど、「E:環境」の観点から更なる非財務情報を開示することを弊社は期待します。
また、文化シヤッターは買収防衛策を導入しており、弊社が要望していた政策保有株式を全株売却するという方針は、中計で明らかにされませんでした。これらの問題を解消することでWACCを低下させることも弊社は期待します(以下のトピックもご覧ください。)。
トピック:買収防衛策及び政策保有株式のESGとの関係について
買収防衛策を導入することは、潜在的な敵対的買収の可能性を遠ざけることであり、市場を通じた取締役の経営に対する規律「G:ガバナンス」を弱める働きがあります。
また、政策保有株式を保有することは、会社の資産を用いて政策保有株式の発行会社の取締役を無条件に支持すること(取締役の保身に協力すること)であり、発行会社の安定株主となることです。安定株主が増えると市場を通じた取締役の経営に対する規律(「G:ガバナンス」)を緩めることに繋がります。
さらに、文化シヤッターは「取引先との良好な関係の維持、強化」のために政策保有株式を保有している旨、
開示していますが、株主から預かった資産で取引先経営陣の保身に協力するという意味で取締役としての善管注意義務違反となる可能性があります。
また、文化シヤッターが株式保有により取引という利益供与を受けているという意味では、取引先経営陣は株主の権利行使に関する利益供与の禁止に違反する疑い、
さらに政策保有株式の発行会社が文化シヤッターに株式保有を強要しているとすれば優越的地位の濫用に類似する行為だという疑念も生じるものと考えます(「S:社会性」)。